相続人や所有者が行方不明に!不在者財産管理制度の概要や要件などを解説
「相続が発生したものの、相続人の1人が行方不明で遺産分割協議が進まない」
「不動産の所有者が行方不明で管理や処分ができない」
こういった事態に直面する方は意外に多く、このようなケースに対応するために「不在者財産管理制度」があります。
これは、従来の住所や居所を去って容易に戻って来る見込みのない方(不在者)の財産を、家庭裁判所の選任した人が管理・保存する制度です。これを利用することで、放置されている財産を適切に管理し、相続人や債権者など関係者の利益を守ることができます。
本記事では、制度の概要や要件、申立ての手続き、管理人の役割などについてくわしく解説します。もし、ご自身やご家族が同様の状況に置かれている場合は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.不在者財産管理制度とは?
行方不明になると、その人の財産は放置され、劣化したり、権利関係が複雑化したりする可能性があります。このような事態をさけるために、民法には不在者財産管理制度が規定されています。
参考:e-Gov法令検索「民法 第25条(不在者の財産の管理)など」
1)不在者財産管理制度の概要
所有者が行方不明で、財産の管理を適切におこなうことができない場合に、家庭裁判所が利害関係人などの申立てに基づき、管理人を選任し不在者財産の管理・保存をさせる制度です。
管理人は、財産の管理・保存をおこなうだけでなく、家庭裁判所の許可をえて、不在者に代わって遺産分割や不動産の売却などをおこなうことも可能です。
2)2021年改正|不在者財産管理人による供託ルールが明確化
2021年の改正により、不在者財産管理人の供託ルールが明確化され、2023年4月1日から施行されました。
管理人が供託できる場合や、供託した場合の対応は次のとおりです。
●財産の管理や処分などにより金銭が生じた場合には、不在者のために供託できる
●供託した場合はその旨や一定の事項を公告する必要がある
●管理すべき財産のすべてが供託され、管理すべき財産がなくなった場合は、家庭裁判所は管理人の選任処分を取消すことができる
供託により管理業務を終了させる場合は、家庭裁判所に申立て、管理人の選任処分の取消しができ、これらのルールが明確化されました。

2.不在者財産管理人選任の申立ての要件
管理人を選任してもらうためには、家庭裁判所への申立てが必要です。この申立てをおこなうには、一定の要件を満たす必要がありますので、把握しておきましょう。

参考:裁判所「不在者財産管理人選任の申立書(書式の記入例)」
1)不在者であること
まず、財産管理の対象となる人が「不在者」である必要があります。不在者の要件を満たすか否かについて、家庭裁判所は、申立書や所在不明となった事実を裏付ける資料を確認し、場合によっては申立人や市区町村から事情を聴くなどして判断します。
2)財産の管理人を置いていないこと
不在者が、すでに自分の財産の管理を委託している場合には、管理人を選任する必要はありません。たとえば、親権者や後見人のように法定代理人が存在している場合や、不在者が自ら財産管理人を置いているような場合には、管理人を選任する必要性がないものと判断されます。
なお不在者において、単なる事務的な財産管理をする者を置いているに過ぎない場合には、「財産の管理人を置いて」いるとはいえず、管理人を選任することが可能です。
また、不在者が財産の管理人を置いていた場合であっても、その不在中に当該財産の管理人の権限が消滅した場合には、あらためて管理人を選任することが可能です。
3.不在者財産管理人選任の申立てができる人
不在者財産管理人選任の申立ては、誰でもできるわけではありません。法律で定められた人だけが申立て可能です。
1)利害関係人
選任の申立てができる人のうち、最も多いのは「利害関係人」です。利害関係人とは、不在者の財産に関して法律上の利害関係を有する人を指します。
具体的には、以下のような人が該当します。ただし、単に不在者が所有する土地を購入したいといった意思を有しているだけの方などは、利害関係人には該当しません。
・配偶者 ・相続人 ・債務者 ・債権者 ・その他裁判所が認める者 |
2)検察官
利害関係人が管理人選任の申立てをしない場合などは、検察官も申立てをおこなえます。これは、不在者の財産が放置されることで、公共の福祉が害されるおそれがある場合などに、検察官が職権で申立てをおこなうケースになります。
3)権限が消滅した当該財産の管理人
不在者の財産の管理を委託されていた人が、その権限を失った場合には、その人も管理人選任の申立てができます。

4.不在者財産管理人の法的地位と権限
不在者財産管理人は、家庭裁判所によって選任され、不在者の財産を管理・保存する役割を担います。
1)不在者財産管理人の法的地位
不在者財産管理人は、不在者の代理人として、家庭裁判所の監督のもとで、不在者の財産を管理する人です。そのため、不在者本人の意思に反する行為をおこなうことはできません。
また管理人は、自己の利益を図る目的で、不在者の財産を処分したり、利用したりすることは禁じられています。破産管財人のように独自の地位は有しておらず、あくまで不在者のための法定代理人であることに留意する必要があります。
2)不在者財産管理人の権限(できること)
民法103条の規定に従い、不在者の財産の管理・保存に関する行為をおこなうことができます。この範囲内の行為であれば、不在者の意向にかかわらず、かつ、裁判所の許可を得ることなくおこなえます。
●保存行為 ●代理の目的である物または権利の性質を変えない範囲内において、その利用または改良を目的とする行為 |

5.家庭裁判所の許可が必要なケース
管理人が、不在者の財産について、重要な処分や利用をおこなう場合には、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
1)裁判所の許可
前述の民法103条の範囲を超える行為をおこなう場合には、裁判所の許可が必要です。裁判所は、当該行為をおこなう必要性と不在者に生じ得る不利益をもとに、許可するか否かを判断します。当然、当該行為をおこなう必要性が低い場合には、許可が与えられません。
2)裁判所の許可を得ないでおこなった行為
家庭裁判所の許可を得ずに、許可が必要な行為をおこなった場合、その行為は 無権代理行為となります。ただし、その後に不在者本人の追認があれば有効となります。
なお、無権代理行為が行われた場合において、不在者が死亡しその不在者財産管理人がこれを相続した場合には、代理権超越を理由として自己に効果が帰属することを否定することは信義則上許されません。

6.不在者財産管理人の選任の取消し
不在者が財産を管理できるようになったときや、管理すべき財産がなくなったときは、その選任を取消すことができます。
1)不在者財産管理人の選任の取消し
上記のとおり、不在者が財産を管理できるようになったときには、本人に財産の管理を委ねることが相当なため、管理人の選任処分は取消されることになります。
また、管理すべき不在者の財産がなくなったときにも、管理人は不要となりますので、この場合にも選任の処分は取消されます。
ただし、裁判所による取消しのない限り、管理人の選任処分の効果が失われることはないと考えられていますので、適正な手続きが必要です。
2)選任の取消しの申立てと効果
不在者財産管理人の選任の取消しは、利害関係人や検察官などが、家庭裁判所に申立てることによって行われます。さらに、裁判所は、職権で管理人の選任を取消すこともできます。

7.不在者財産管理制度まとめ
今回は、不在者財産管理制度の概要、申立ての要件、管理人の役割などについて解説しました。これは、行方不明になった人の財産を保護し、関係者の利益を守るための重要な制度です。
もし、相続人や不動産の所有者が行方不明で困っている場合などは、この制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、不在者財産管理制度は、複雑な手続きが必要となる場合があり、専門的な知識も必要となります。そのため、専門家へ相談することをおすすめします。
参考:土地家屋調査士法人 臼井事務所
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